依頼者の感情に寄り添って、依頼者が本当にその問題を解決できるよう、サポートする
COLUMN

勝ち負けを超えた弁護 勝って後悔?負けて満足!依頼者が真に求めるもの

ある日のこと、予約なしに訪れた女性がありました。その人が言われるには、「先ほど、判決が出た。負けた。悔しい。控訴をして欲しい」とのことでした。聞けば、弁護士に依頼せず、自分自身でやっていたとのこと。しかし、その人の依頼内容を聞くと、勝つことが困難(というより不可能)な事件であることがわかりました。

素直にそのことを伝え、弁護士費用を支払っても経済的には損をするだけだし、判決に従った方がよいとアドバイスをしました。しかし、その人は「いや、それでもやってもらいたい」と言われます。

そこで、引き受けることにしました。

その人の言い分を法律的に組み直し、裁判所に提出。直接本人の声をと思い、裁判所に連れて行き、裁判官の前で話もして貰いました。その後、裁判官から「和解しませんか」との提案がありました。ただ、提案内容は、第1審の判決からわずかに有利になっただけで、ほぼ敗訴判決と同じものでした。

納得されないだろうな、と思いつつ、本人に話をしました。すると、「わかりました。それでお願いします」との返事。意外に思いましたが、決意は固く、その内容で和解することになりました。

後日、その人が訪ねてこられました。そして、封筒を差し出されたのです。「先生、これ、報酬です。受け取って下さい」と。敗訴の場合、普通は報酬を受け取りません。もちろん、請求もしていませんでした。「いや、受け取れませんよ」と言って辞退しました。

「先生、私は嬉しかったんです。はじめの裁判の時、裁判官は私の言うことを何も聞いてくれなかった。判決も全然納得できなかった。でも、先生に依頼してから、先生はしっかりと話を聞いてくれて、書面にも書いてくれた。裁判官の前でもしっかりと話ができた。それを全部含んでの和解でしょ。私はそこで納得したんです。思えば、先生が最初に言われたとおりやった。本当にありがとうございました」こう言われるのです。

正直、驚きました。

逆に、勝訴判決を得た後、「先生、これでよかったんですよね。私、勝ったんですよね」と念を押される方もあります。法律的には勝っていても、満足はできていない。むしろ、後悔の念が頭をもたげていることもあるのです。

私は、この人から学びました。「負けて満足」の裁判もあるのだということを。勝つべき裁判に勝つことは当然です。できる限り逆転勝訴も目指します。負けるべき裁判の痛手を少しでも軽減することも当然です。でも、それらは結果にフォーカスした弁護です。結果も重要ですが、その前提にあるものを見なければならない。それは、プロセスです。依頼者の方と信頼関係を構築していく中で、その方の感情にしっかりと寄り添う。依頼者と同じ目線で共感する。そして一緒に戦う。

弁護士が努力することで得られる解決はどうしても「金銭的な解決」になってしまいます。もちろん、お金を求めている依頼者もおられますが、多くの場合は、お金にしか換算できないからです。でも、最終的な解決は、依頼される方がその問題を自分の感情の中でどうやって決着をつけるか、で決まります。事実は変えられません。でも、事実に対する意味づけ、解釈はいくらでも変えられます。そして、それを見出すことができるのは本人だけです。

依頼者の感情に寄り添って、依頼者が本当にその問題を解決できるよう、サポートする。それが私の仕事なのだと思っています。

WRITER

小倉 悠治

弁護士・経営心理士

小倉 悠治

Yuji Ogura

2004年、東京大学教育学部 卒業。2007年、慶應義塾大学大学院法務研究科 修了。2018年3月、小倉悠治法律事務所 開設。2018年4月~ 2019年3月、金沢弁護士会 副会長。
弁護士資格のみならず、経営心理士・キャッシュフローコーチの資格を有し、法務のみならず労務、財務も含め心理面まで見据えたサポートを得意とする。「社長の社外幹部」として企業の成長と発展に貢献。

小倉悠治法律事務所

https://ogura-kigyohoumu.com

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