人は変えられない、変えられるのは自分自身の行動、接し方です
COLUMN

人間関係の改善術「何を言うかより誰が言うか」

01 「何を言うか」と「誰が言うか」

「部下に何度言ってもわかってくれない」、「どう言ったらわかってくれるのだろう」
こんな悩みを持っておられる方は多いかと思います。こんな時、ちょっと考えていただきたいのが、部下との心理的な距離感です。人は自分が信頼している人の言葉は聞き、信頼していない人の言葉はなかなか受け入れることができません。何を言うかよりも、誰が言うかが大事なのです。

こんなことがありました。私が弁護士になりたての頃のことです。相手に対して損害賠償請求をしていた事案でしたが、裁判所から和解勧告を受けていました。和解を受け入れれば請求していた金額より若干下がるものの、早期に解決でき、メリットのある和解案でした。私は依頼者に対して「ここで和解をしましょう」と説得しました。判決になるよりも得られる金額が多いこと、判決になれば控訴されるかもしれず、2~3年はかかる可能性が高いこと、ここで和解をすればそれだけストレスが減ることなど、論理を尽くして説得しました。でも、うまくいかない。根を上げた私は、当時の所長に助けを求めました。今度は所長が説得します。説得の言葉は、私の言っていることとほとんど一緒。「あー、こりゃ説得できないわ。所長、それさっき僕が言いましたもの・・・」と心の中で思っていました。ところが、その依頼者は一言「わかりました」と言ったのです。私は耳を疑いました。でも、その後の言葉で疑問は氷解したのです。「先生は私のことを考えて下さって、最善の案を提案して下さったのですよね。それがよくわかりました。本当にありがとうございます。先生にお任せします」。

私は「何を言えばいいか」ばかり考えていたのです。でも、よくよく考えてみれば、弁護士になりたての若造から理屈を言われても「お前に言われたくない」というのが本心だったでしょう。一方で、所長は依頼者から全幅の信頼感を得ていたのです。そこには「自分のことを考えてくれている」という大前提があります。だからこそ、その言葉が心に届くのです。仮に言葉は同じでも、伝わり方がまったく違う。好きな人からは多少間違ったことを言われても気になりませんが、嫌いな人から言われると、正しければ正しいほど腹が立つということもあります。

02 部下との信頼関係

翻って考えてみると、上司と部下の関係ではどうでしょうか。問題は、私自身が「誰が言うか」の「誰」になることができているかどうかです。部下に言葉が届くかどうかは、どれだけ自分が信頼されているか、慕われているかです。部下の心には私の姿がどのように映っているのか。

部下の信頼を高めるためには、日頃の言動が重要です。部下に感謝を伝えているか。部下の話を共感して聞いているか。部下のことを褒めているか。部下の可能性を信じて成長を支援しているか。部下との約束を守っているか。まさに、自分が試されていると言えます。もし、部下が自分の言葉を聞いてくれないなら、こう振り返ってみるべきです。

「自分は部下から認められているのか」、「信頼されているのか」、「心の扉は開いているか」と。

究極的なことを言えば、人は変えられない、変えられるのは自分自身の行動、接し方です。部下の成長のために自分は何ができるだろうか、と徹底して自分の行動を変えることを考えるのです。

03 心が届く、叱り方 ~サンドイッチ方式~

信頼関係が樹立できた場合であっても、部下の指導教育の中でも難しいのが「叱る」ことです。特に最近は、「パワハラにならないか」、「部下が落ち込んでしまわないか」と不安に思い、なかなか叱ることができない人が増えてきているように思います。もちろん、人格否定的な言葉を使ったり、過度に強く叱ることは禁物です。けれど、指導とパワハラは異なりますので、ここぞという時はしっかりと叱ることが必要です。

かの松下幸之助さんは叱り方の達人であったと言われています。松下幸之助さんは叱るときは全身全霊であったと言われます。ただ松下幸之助さんのすごいところは、叱った後に、褒めることなのです。そして「私はあなたのことを信頼(期待)している」というメッセージをしっかり伝えているのです。よくサンドイッチ方式と言われますが、褒める→叱る→褒める&期待の高さを伝えるという形で行うのです。叱っているけれども、その根底には、部下に対する期待や信頼があるのです。「君の実力はこんなもんじゃない!」ということですね。

ただ、褒めるためには、部下の長所を知っていなければなりません。とかく経営者の方や社内で出世する人は、能力が高いだけに部下の欠点ばかりを見てしまいがちです。だからこそ、長所を「探し」て「発見」するわけです。これは日頃注意していないとできません。しかし、長所を知っていれば、褒めることも叱ることも期待を伝えることもできます。逆に言うと、長所を知らずに教育指導することはできないと言ってもよいと思います。自分の当たり前ではなく、相手の立場に立って考えてみる。相手の立場で考えると、とても頑張っていることがわかります。その努力を褒めるのです。

部下との信頼関係を高めて、一体感を持って会社を経営したいですね。

WRITER

小倉 悠治

弁護士・経営心理士

小倉 悠治

Yuji Ogura

2004年、東京大学教育学部 卒業。2007年、慶應義塾大学大学院法務研究科 修了。2018年3月、小倉悠治法律事務所 開設。2018年4月~ 2019年3月、金沢弁護士会 副会長。
弁護士資格のみならず、経営心理士・キャッシュフローコーチの資格を有し、法務のみならず労務、財務も含め心理面まで見据えたサポートを得意とする。「社長の社外幹部」として企業の成長と発展に貢献。

小倉悠治法律事務所

https://ogura-kigyohoumu.com

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